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バンコク 2007-08 [アジアの町紀行]

タイの首都バンコクの、この居心地の良さは、いったいどこから来るものなのだろうか。

べつにゴーゴーバーやマッサージ屋の女の子とイチャつかなくても、
街をぶらぶらしているだけで、このナマぬるい空気のなかから、抜け出せなくなってしまう。

適度の喧騒と、適度の洗練。
それらがまるで揺りかごのように代わる代わるやって来て、
まるで媚薬のように、私をとろんとさせる。

老若男女を問わず、毎年一回はこの街に来てしまう、そういう日本人が多いのは
どうにもしようがないように思える。

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バンコクゆきの列車にて。マハーチャイ駅。
タイは微笑みの国、といわれる。
ベトナム・ホーチミンでは、人は外国人に対して仏頂面しか見せないが、
ここの人々は穏やかで、終始にこやかで大いに愛想がよい。

私は滞在中、何度もタクシーを利用した。
どのタクシーの運転手も、微笑みを絶やさず、気さくに話しかけてくる好青年であった。
しかし、ほとんどの場合、こちらが気を許している隙に、ちょっとばかり遠回りしたりしていた。

そんなことに目くじらを立てているわけではない。
私が指摘をすると、「メーターがおかしいな」等と取り繕いながらも
彼らはきちんと詫び、正規の料金にしてくれた。

彼らのそういう小さな「努力」の積み重ねが、今のこの国の、この都市の賑わいを生む。
そんなソツのなさから、ときにハッとするような洗練が垣間見える。
このあたりの機微は、かつて日本人が持っていたそれと、よく似てはいないだろうか。

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一年中、花の絶えることのないバンコク市街。
トン・ロー付近


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おしゃれエリア、トン・ローにあるコンプレックスビル「H1」
南国のムードが濃厚に漂う。


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高架電車BTSが走るスクンヴィット通り


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BTSの風景。チョン・ノンシー駅にて。


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バンコク市街の朝。チョン・ノンシーあたり



そもそも、バンコクほどセックス産業が公然と存在しているところも珍しい。
女の子たちは、殆どアルバイト感覚のようだ。
セックスやら性転換にしても、くりかえされる政争のやらクーデターやらにしても、
我々の感覚からすると、あまりにもあけすけではないかと思えるくらい、日常茶飯事である。

もちろん、それらをタイ社会の抱える問題として指摘することもできよう。
その中にはのっぴきならない事情を抱えた人間も大勢いるだろう。
しかし、その上で語弊を恐れずに言うならば、
バンコクという町を歩きながら、私のとろけた脳裏に映し出されるのは、
それでもなお諸問題のうしろにある、調和と均衡のとれた、大きな揺りかごのような何かである。

人とその社会が、平和で円満であるからこそ、である。
やはりここは仏の都、クルンテプなのだ。


こと私に関していえば、
バンコクに胎内回帰を錯覚してしまうのは、そういうところではないかと思う。

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しかし今回の私の写真では、そのような天国的なエスプリは、ほとんどとらえることができなった。
映っているのはただ、とぼけた、それでいてソツのないバンコックの日常だけである。

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タイの未来を担う学生たち




■オリエンタルホテルのオマージュ

むかし、ブックオフで買って読んだ辻仁成の「サヨナライツカ」。
現実にはあり得ないような、自慰行為的なエセロマンスといっていい作品であった。
しかし、エセ=偽物には偽物のもつ無視できない真実というのが、確かにあって、
小説の中でこのホテルに滞在した沓子という女性の面影を、いまも頭の片隅から払しょくできないでいる。

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さて、真実のバンコクに戻ろう。
乗り物好きのあなたにおすすめしたいルートが二つあるので紹介したい。

■「プラカノン運河の乗り合いボート」
バンコクは、チャオプラヤ河の河口近くに開けた街なので、少し町はずれに行くと
たくさんのクリークが網の目のように広がっている。
クリークは、生活の場でもあり、多くの家々が、クリークに面して建てられているし
生活物資を積んだ手こぎボートがたくさんクリークを行き交っている。
もちろん、一般の人が乗れる乗り合いボートの路線もいくつかあるのだが、
中でも手ごろなルートが、プラカノン運河のボートだというので、行ってみた。

船着き場への最寄り駅、プラカノンへは、スクンヴィット通りに沿って走るBTS(高架電車)で。
日本人駐在員の多いおしゃれな街、トン・ローやエカマイを過ぎて次の駅がもうプラカノンだ。
駅を降りてスクンヴィット通りをそのまま東に歩くと、すぐにプラカノン市場の雑踏に出くわす。
雑踏をかわしながらスクンヴィット通りをそのまま歩いて行くと、プラカノン運河をわたる橋があり
そのたもとに、ボートの発着所がある。
早朝から19時ごろまで、30分おきの運行。ボートはプラカノン運河から北へ、
クロンタンを経由してラート・プラオ運河に入り、さらに北上して
ドン・ムアン空港裏手のイン・チャルン市場まで行く。
私は、時間の都合でクロンタンを過ぎたあたりで降り、折り返しのボートでプラカノンへ引き返した。
右に左に水路をたゆたいながらの片道40分ほどの船旅は、
日ごろとは異なった目線で、ありのままのこの地の生活風景が飛び込んできて
誠に新鮮なものだった。

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■ウォンウィアン・ヤイ駅からの郊外電車

地下鉄や高架電車など市内を走る鉄道は、確かに街の舞台装置のひとつというか
ときには華やかな舞台そのものとして街を物語ってくれる。
しかし、私はむしろ舞台袖から楽屋へと通じる、この郊外電車というものが好きである。
話は飛ぶが、かつて金沢を訪れた際、
夕暮れ時に、地元の帰宅客に混じって単線の郊外電車に揺られたことがある。
農村と住宅が混在するような、何の変哲もない郊外の駅で降りて、
折り返し電車がやってくるまで、その駅のホームで過ごした数十分ほど
私のはじめての金沢旅行の中で印象に残っているものはない。
薄暗くなっていく空の下、遠くに立ちのぼる野焼きの名残り。
地平線にまで満ちる夕餉の支度の静かなさんざめきと、かすかに聞こえてくるピアノの練習曲。
空に一番星があらわれ、かなたからまた電車がやってきた。

それはともかく、地図をみたところ、バンコクで一番郊外電車らしそうなのは、
ウォンウィアン・ヤイ駅から西に向かって出ている路線である。
途中、マハーチャイというところで運河のためいったん線路が切れ、その対岸から
さらにメークローンという町まで伸びている。
れっきとした国鉄路線のはずだが、なぜかタイ国鉄の時刻表には路線が掲載されていない。
それほど地元志向の強い路線ということだろう。

ということで向かったウォンウィアン・ヤイ駅(この駅名、どうしても覚えられん)。
単線で一本だけのシンプルなプラットホームは、露天商たちに占領されていた。

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マハーチャイ行きの電車は、40~70分おきに出ている。


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マハーチャイ駅はにぎやかな市場と一体となったような駅
2面3線とわりと構内は広く、奥には車庫もあって、ターミナルらしい貫禄のある駅だった。



ここから先へ向かう列車に乗るためには、フェリーで対岸にわたる必要がある。
フェリー乗り場はマハーチャイ駅から歩いてすぐ。


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対岸について右へ歩いていくと、列車の駅があるはず。
なのだが、これがなかなかわかりにくい。
地元の人に絵を描いて尋ね、ようやくたどり着いたバーンレム駅

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あくびが出るような、間延びした駅だった。
ここから終点のメークローンまでの区間は、一日4往復しかない


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タイの犬ほどショボくれた姿態をさらしているものはない



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マハーチャイまでの電車もひどい揺れだったが、
この路線はもっとひどく、しじゅうローリングしているかと思うと
突然ドンと突き上げるような揺れがあったり。
脱線しているのではないかと、真剣にいぶかるほどであった。
スピードは、おそらく時速30キロに達していない。

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穏やかな田園の中をガチャガチャ走ってきた電車だったが、
終点近くなって、突如、恐るべき車窓風景に出くわす。

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ウォンウィアイ・ヤイ駅もマハーチャイ駅も、市場と同居していたが、
あんなものは序の口であった。
この終点のメークロン駅のあたりでは、線路が完全に、市場のなかに埋もれて消えている。
電車が通るのは一日に8回。そのときだけ、商店は一部撤収し、電車に道を開ける。

かつてTVで見た光景は、現実に存在したのである。


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なぜ市場の中に線路が? と思うしかない。
トロッコ用? いえいえ。

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このように人々が少しずつ道をあけ始めたら、電車が近付いてきているということ。
電車が来る時刻は必ずしも時刻表通りではないが、どのようにして彼らは電車接近を知るのだろう。

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電車が通り過ぎるやいなや、そこはまた市場に戻る。

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終着駅、メークローン駅の向こうにはまた河があった。
河の向こうには白亜の宮殿のような建物があり、そこへ行ってみたいと思ったが、
線路は、そこにたどり着くことができないまま河のほとりで地中に没し、そのまま無くなっていた。
かたわらで、犬が一匹、安らかな寝息を立てていた。

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マハーチャイの子供。


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マハーチャイ駅


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バンコク・ウォンウィアイ・ヤイ駅


なお、一日4往復の列車の時刻表を、念のために記載しておく。
ただし、撮影当時(2008年1月)のものである。
また、私の乗車時は、往復ともほぼ20~30分ほど遅れて走っていた。

BAN LAEM → MAE KLONG
0730→0830 1010→1110 1330→1430 1640→1740

MAE KLONG → BAN LAEM 
0620→0720 0900→1000 1130→1230 1530→1630

なお、バーンレム10時10分発の列車に乗る場合は、
バンコクのウォンウィアン・ヤイ8時35分発、マハーチャイ9時28分着の列車に乗る必要がある。


撮影:2007年12月-2008年1月
本文:2009年12月


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